上唇小帯付着異常(じょうしんしょうたいふちゃくいじょう)について
前回、舌小帯短縮症(ぜつしょうたいたんしゅくしょう)について解説しましたが、今回はもう一つ別の小帯である、上唇小帯(じょうしんしょうたい)の疾病について触れてみたいと思います。
上唇小帯は、上唇から前歯にかけての筋のことで、その形や位置に異常があることを上唇小帯付着異常といいます。
上唇小帯付着異常を放置していたらどうなるのでしょう?その際に起こりうること、そして上唇小帯付着異常の治療法についてお話ししていきます。
上唇小帯付着異常とは
冒頭でも触れましたが、上唇小帯の形や位置が良くない状態を上唇小帯付着異常といいます。 具体的には、太すぎたり、中切歯(ちゅうせっし)という真ん中の前歯の間にまで伸びているような状態です。
上唇小帯付着異常の症状
上唇小帯付着異常だったとしても、痛みや腫れと言った自覚症状がないため、多くの方はそれに気がついていません。その状態でずっと暮らしているので、それがご本人にとっては普通な状態ですから、自覚症状に乏しいのです。
上唇小帯付着異常の治療~小帯切除術
上唇小帯付着異常は放置していても自然に治ることはほとんどありません。そのため、小帯切除術という外科手術で、上唇小帯の形や位置を整えます。
外科手術といっても、比較的簡単な部類に入る手術なので、局所麻酔で十分行えます。
上唇小帯付着異常の治療時期は、10歳ごろまでが適しています。 早過ぎても良くないとされていて、8〜9歳以降の手術が推奨されています。
上唇小帯付着異常を放置してしまうと…
上唇小帯付着異常は自覚症状に乏しいため、もし、気づかずに大人になるまで放置していたらどうなるのでしょうか。
歯列不正が起きやすい
上唇小帯付着異常の方の多くに、左右の中切歯の間に隙間が残る、正中離開(せいちゅうりかい)という歯列不正が認められます。いわゆるすきっ歯のことですね。
中切歯が生えて間もない頃は隙間があるものなのですが、中切歯の隣の側切歯(そくせっし)という歯が生えてきたタイミングで、隙間がなくなります。
ところが、上唇小帯が中切歯の間に挟まると隙間が閉じられず、正中離開になってしまいます。 このようなケースでは、中切歯の向きもねじれていることが多くなります。
虫歯や歯周病になりやすい
上唇小帯が太過ぎたり、長過ぎたりすると、歯磨きの時に歯ブラシが当たりやすくなります。
歯ブラシが小帯に当たると痛いので、自然と前歯の歯磨きが疎かになってしまい、上唇小帯付着異常の方は、前歯の歯肉が腫れやすくなるだけでなく、虫歯にもなりやすくなってしまうのです。
治療も困難に
困ったことに、上唇小帯付着異常があると、虫歯や歯周病の治療も難しくなってしまいます。
例えば、大きな虫歯になると、歯型をとって差し歯を作りますが、歯型を取る時は、トレーという台に印象材という粘土のようなものを盛ってお口に入れて、固まるのを待ちます。
このトレーは基本的に既製品です。上唇小帯付着異常がない前提で作られていますので、上唇小帯付着異常が強い方は、トレーが当たってしまい、きれいな歯型が取りにくいのです。
これは一例ですが、上唇小帯付着異常があると、歯科治療が難しくなるケースが出てくることをお分かりいただけると思います。
入れ歯が入れにくくなる
フィット感の良い入れ歯を作るポイントはいくつかあるのですが、入れ歯の縁をどのような形にするのか、どの位置に持っていくのかもポイントのひとつです。
上唇小帯付着異常があると、入れ歯の縁が上唇小帯に当たるので、上唇小帯付着異常を傷つけてしまい、痛くなりやすい状態になります。
上唇小帯に当たらないように入れ歯を作らなくてはならないのですが、そうすると外れやすい入れ歯になってしまいます。このように、上唇小帯付着異常は入れ歯を作るのも難しくしてしまいます。
大人の上唇小帯付着異常の治療
大人になってから上唇小帯付着異常が見つかっても治療できます。
大人の上唇小帯付着異常の治療法
大人の方の上唇小帯付着異常の治療法は、上唇小帯切除術です。
基本的には局所麻酔の注射をし、メスで切開してから上唇小帯を切除します。そして、縫合して閉じます。
最近では、メス(外科用の普通のメス)の代わりに、レーザーメスを使うこともあります。 レーザーメスなら、出血が少ないので縫合する必要がほとんどなく、治療時間も短くてすみますし、処置後の痛みや腫れも少なくて済むという利点があります。
大人の上唇小帯付着異常の治療は保険適用
上唇小帯切除術は、保険診療の適応を受けています。保険診療では、上唇小帯切除術ではなく、小帯形成術といいます。
保険診療ですから治療費は安価に抑えることができ、標準的な窓口負担である3割負担の方の場合、手術代だけなら2,000円ほどです。 レーザーメスを使うと、レーザー加算が加わりますが、加算額は150円ほどです。
上唇小帯付着異常の予防法
大人の上唇小帯付着異常は、歯列不正などさまざまな合併症をもたらしますので、できることなら大人になるまでに上唇小帯付着異常を発見し、治療しておきたいところです。
子供の頃からの歯科受診
お話ししたように、上唇小帯付着異常に自覚症状はほとんどありません。そのため、歯科医院で上唇小帯付着異常の有無を確認してもらうのが一番良いと言えます。
タイミングとしては、小学校に入る前からがおすすめです。 定期的に歯科医院を受診しておけば、虫歯のチェックや予防もできますし、上唇小帯付着異常が見つかったとしても、治療に適したタイミングまで経過観察を受けることができます。
子供の頃に治療できれば…
子供の頃に上唇小帯付着異常に気がつき、適切な治療を受けられれば、歯列不正などの合併症を防げます。 上唇小帯付着異常の治療だけで済むので、時間や費用の面で大変有利です。
まとめ
今回は、上唇小帯付着異常を放置していたときに起こりうることについてお話ししました。
上唇小帯付着異常を大人になるまで放置していると、歯列不正、虫歯や歯周病などのトラブルの原因になります。 大人になってからでも上唇小帯付着異常は治せますが、それに加えて様々な治療も必要になることが多くなってしまいます。
上唇小帯付着異常は、できることなら子供の時期に治療を受けておくことをおすすめします。今回のコラムをお読みになって、上唇小帯付着異常についてご質問やご相談のある方は、成増駅すぐそばの成増さくら歯科・矯正歯科にぜひお越しください。