親知らずの抜歯の際に気をつけること
前回、親知らずが痛くなる原因と対処法のコラムで、親知らずが痛む場合は、抜歯になることが多いことを説明しました。
親知らずの抜歯は、他の歯の抜歯と比べて難易度が高い抜歯とされています。 大きさも一定ではありませんし、向きも通常の歯と異なることが多いからです。
難度が高い抜歯には、それなりのリスクもありますので、今回は、親知らずの抜歯の際に気をつける点について解説します。
上顎下顎両方に起こりうるリスク
上顎と下顎の親知らず、どちらにも起こるリスクから説明します。
抜歯後治癒不全
抜歯後治癒不全は、比較的頻度の高い抜歯後のリスクのひとつで、名前のとおり、抜歯後の治りが悪い状態のことを指します。 抜歯した穴に血液が満たされず、骨が露出した状態になります。そのため、痛みが続き、食べ物が入り込みやすくなります。
穴の部分にガーゼや軟膏を詰めて、傷口の安静を図ります。 しばらくすると、骨の表面が覆われて、痛みが少しずつ和らいでいきます。
抜歯後出血
抜歯後出血も比較的多い抜歯後のリスクのひとつです。 抜歯後は、血が止まっていることを確認して帰宅してもらいますが、時間が経ってから出血することもあります。
まずは、ガーゼやティッシュペーパーを丸めて、30分ほど噛んでください。 唾液ににじむくらいの出血なら心配ありません。
カウザルギー
カウザルギーは、抜歯後の異常感覚のことで、親知らずの抜歯に限らず、外科処置ならどこでも起こり得ます。 頻度は、50〜100万人に1人くらいなので、とても稀と言えるでしょう。
焼けるような痛みであることもあれば、抜歯したはずなのに虫歯が続くといったものもあり、症状は一定ではありません。
カウザルギーの痛みは、痛み止めの薬では効果がありません。 カウザルギーを起こした場合は、麻酔科のペインクリニックで治療してもらう必要があります。
下顎の親知らず抜歯のリスク
下顎の親知らずの抜歯によって起こりうるリスクとしては次のようなものがあります。
下歯槽神経麻痺(かしそうしんけいまひ)
下歯槽神経は、下顎神経(かがくしんけい)という神経の末端の枝のひとつです。 下顎神経は、三叉神経(さんさしんけい)と呼ばれる、五番目の脳神経から別れた神経です。
下歯槽神経は、下顎神経から別れたのち、下顎骨の後ろの立ち上がっているところから下顎骨の中に入り、親知らずの下を通って前方の穴から出てきます。 下歯槽神経麻痺は、抜歯などによりこの下歯槽神経が痺れることを指します。
下歯槽神経は、下唇や下顎の感覚を司っており、下歯槽神経が麻痺すると、下唇や下顎の先端の感覚が鈍くなります。 触ると、麻痺した側(患側)とそうでない側(健側)との間で差が出るように感じます。
下歯槽神経麻痺が起きた時は、基本的に投薬治療となり、 メチコバールというビタミン剤を一日3回飲んでいただきます。 多くの方は1ヶ月ほどで治りますが、6ヶ月経っても治らない場合は、症状が残ったままになる可能性もあります。
舌神経麻痺(ぜつしんけいまひ)
舌神経(ぜつしんけい)も、下顎神経の枝のひとつです。 舌神経は、下顎骨の内部には入り込まず、下顎骨の内側に沿うようにして舌に向かい、舌の前方部分に広がります。 舌神経麻痺は、抜歯などの影響で、舌神経が麻痺することです。
舌神経は、その名のとおり、舌の感覚を司る神経です。 舌神経が傷つくと、舌の前側の感覚が鈍くなり、味覚も感じにくくなります。
対処法としては、下歯槽神経麻痺と同じく、薬での治療となり、治療後の症状の経過も下歯槽神経麻痺と同様です。
口腔底迷入(こうくうていめいにゅう)
口腔底とは、下顎骨の内側のことです。 下顎の親知らずの内側の骨が薄いと、親知らずを抜歯した際に歯根が下顎骨の内側に入り込んでしまうことがあります。 これを口腔底迷入といいます。
口腔底迷入があっても、すぐには症状は現れません。 迷入した歯根が感染源となって炎症が生じると、飲み込んだ時に喉の痛みを感じたり、お口の開けづらくなったりします。
口腔底迷入が起きた場合は、口腔底に入り込んだ親知らずの摘出を行います。炎症によって口が開けづらくなると、処置が難しくなるので、先に抗菌薬で炎症を緩和させます。
上顎の親知らず抜歯のリスク
上顎の親知らずの抜歯には、以下のようなリスクがあります。
上顎洞穿孔(じょうがくどうせんこう)
上顎洞とは、鼻の隣、目の下、そして上顎骨の上にある空洞です。 鼻につながっていて、ちくのう症を起こす場所として知られています。
上顎洞の位置は親知らずの上に当たるので、上顎洞と親知らずの間の骨が薄いと、親知らずを抜歯した後、上顎洞に穴が開いてしまうことがあり、これを上顎洞穿孔と呼んでいます。
上顎洞穿孔が起きると、口腔内と上顎洞がつながってしまうため、口に水を含んだ際に、鼻に流れ込んできてしまいます。
穿孔部分のサイズが5ミリ以下であれば、抜歯して出た血液が固まることで、自然に塞がります。5ミリ以上の大きさであれば、自然に塞がらない可能性が高いので、周囲の粘膜を引っ張り、縫い合わせる処置を行います。
上顎洞迷入(じょうがくどうめいにゅう)
上顎洞迷入は、抜歯した親知らずが、上顎洞に誤って入りこんでしまうことです。この場合も、上顎洞穿孔と同様、お口と上顎洞がつながってしまいます。
上顎洞に親知らずが入り込んだままになっていると、ちくのう症(上顎洞炎、副鼻腔炎ともいいます)を起こします。
上顎洞迷入が起きた場合は、上顎洞に入り込んだ親知らずを外科的に取り出します。 抜歯した部分から、迷入した親知らずを取り出せるのであれば良いのですが、難しい場合は、犬歯の上方あたりの粘膜を切開し、取り出すこともあります。
上顎結節骨折(じょうがくけっせつこっせつ)
上顎結節とは、上顎の親知らずの内側にある骨の盛り上がった部分です。 上顎の親知らずの抜歯の際、この部分を骨折させてしまうことがあります。
上顎結節を骨折すると、かなりの出血を生じることがあるため、圧迫や縫合を行って止血するのが最優先となります。
まとめ
今回は、親知らずの抜歯後に起こりうる様々なリスクについて解説しました。 親知らずの抜歯は難しく、こうしたリスクも考慮しなくてはなりません。口腔外科での抜歯となることも多いのはそのためです。
もちろん、確かな技術と必要な設備が完備している歯科医院であれば、これらのリスクを勘案しつつ、適切な処理を行うことができます。成増さくら歯科には口腔外科などの専門医が在籍し、最新の設備のもと、親知らずの様々な症状にも対応が可能です。
成増近辺にお住まいの方で、親知らずの抜歯についてお悩みやご不安のある方は、駅徒歩3分の成増さくら歯科にお気軽にご相談ください。